WISDOM TOOTH
「親知らずは全部抜く」が常識ではありません。痛みの有無・生え方・噛み合わせ・将来の役割——複数の視点から判断する必要があります。歯科医師の見立てのポイントを解説します。
よくあるご質問から
親知らず(第三大臼歯・智歯)は、20歳前後に最後に生えてくる奥歯です。現代人は顎が小さくなる傾向にあり、まっすぐ生えそろうケースは2〜3割と報告されています。残りの多くは、傾いて生えたり、半分歯ぐきに埋まったままだったり、骨の中に完全に埋伏したまま生涯を過ごします。
「親知らずは抜くもの」「痛くないなら様子見」——どちらも一面的な見方です。重要なのは、お一人おひとりの口腔内・全身状態・将来の歯列計画から、メリットとリスクを比較すること。このコラムでは、当院がどのような視点で抜歯の判断を行っているかをご紹介します。
COLUMN INDEX
コラム一覧を見る →
SUPERVISOR
監修:桐生 賢太(きりゅう けんた)
つむぎ歯科クリニック 院長/歯科医師
大学病院口腔外科での研修を経て、外来・訪問歯科診療に従事。一般歯科から口腔外科処置・周術期管理まで幅広く対応。院長プロフィール →
01 — PERICORONITIS
半分埋まった親知らずの周囲は清掃が困難で、繰り返し炎症(智歯周囲炎)を起こしやすい部位です。年に複数回腫れる、痛む、開口障害が生じる場合、症状を繰り返すたびに周囲組織がダメージを受けるため、抜歯が選択肢に上がります。
02 — CARIES
親知らず自体のむし歯はもちろん、傾いて生えた親知らずが手前の第二大臼歯にむし歯をつくるケースは少なくありません。第二大臼歯は咀嚼の要となる歯で、これを守る目的で親知らずを抜くことがあります。
03 — CROWDING
矯正治療では、歯を並べるスペースの確保や、後戻り防止のために親知らずの抜歯を計画に組み込むことがあります。矯正担当医の診断と治療計画に基づいて判断します。
04 — CYST
埋伏した親知らずの周囲に嚢胞(含歯性嚢胞など)が形成されたり、隣の歯の歯根を吸収しているケースでは、放置によりさらなる組織破壊が進行するため、抜歯と病変の摘出を検討します。
05 — PRE-SURGERY
心臓手術・がん治療(化学療法・放射線療法)・骨吸収抑制薬(BP製剤など)の使用開始前は、感染源除去のために炎症リスクの高い親知らずの抜歯を行うことがあります。周術期口腔機能管理の観点から、医科主治医と連携して判断します。
KEEP CASES
以下に当てはまる場合は、必ずしも抜歯が必要ではなく、定期的な経過観察を選択することもあります。
上下の親知らずがまっすぐに生え、対合歯と噛み合って機能している場合、咀嚼の役割を果たしているため温存が原則です。
日常的にしっかり歯ブラシが届き、むし歯・歯周病の所見がなく、症状もない場合は、無理に抜く理由はありません。
前方の歯を失った場合、親知らずを「歯牙移植」のドナー、またはブリッジの支台として活用できるケースがあります。将来の選択肢を残すという考え方も大切です。
下顎管(下歯槽神経)と歯根の距離が極めて近い完全埋伏歯は、抜歯による神経損傷リスクが高く、症状がなければ経過観察を選ぶこともあります(個別の状況により判断)。
01 — SWELLING
下顎の埋伏歯では、術後2〜3日をピークに腫れと痛みが出ます。1週間程度で落ち着くのが一般的ですが、個人差があります。鎮痛剤・抗菌薬を処方します。
02 — NERVE
下顎の親知らずは下歯槽神経と近接しているため、下唇〜オトガイ部に一時的なしびれが出ることがあります。多くは数週間〜数ヶ月で改善しますが、稀に長引くケースが報告されています。CT撮影で事前にリスク評価を行います。
03 — DRY SOCKET
抜歯窩の血餅(血のかさぶた)が剥がれ、骨が露出する状態。強い痛みが続きます。喫煙・うがいのし過ぎが原因になりやすく、術後の注意事項を守っていただくことで予防できます。
04 — TIMING
炎症が起きていない安定期、平日午前中、社会的に休養が取りやすい時期を選ぶのが理想です。試験・出張・結婚式などの大切な予定の直前は避けてください。当院では、お仕事や生活に合わせた計画をご相談します。
FAQ
A. 「痛くないから抜かない」「痛いから抜く」の二択ではなく、生え方・清掃のしやすさ・将来のリスクを総合的に評価します。レントゲンやCTで状態を確認したうえで、ご一緒に判断していきます。
A. 基本的には1〜2本ずつ、左右のバランスを見ながら進めます。一度に多数を抜くと術後の食事・社会生活に影響が大きく、安全面でも推奨されません。
A. 親知らずの抜歯は原則として保険適用です。3割負担の場合、まっすぐ生えた歯で2,000〜3,000円、埋伏歯で5,000〜8,000円程度が目安です(処置内容により変動)。
A. 完全水平埋伏、下歯槽神経との近接が著しい症例、全身疾患のリスクが高いケースなどは、大学病院・口腔外科への紹介をご案内することがあります。安全第一でご判断します。
A. 麻酔が切れる3時間後ごろから、反対側で柔らかい食事が可能です。当日は刺激物・熱いもの・アルコールを避けてください。激しい運動・長風呂も控えていただきます。
DISCLAIMER
本コラムは一般的な歯科医療情報の提供を目的としており、特定の治療法・効果を保証するものではありません。治療の判断は、診査・診断の結果と、ご本人の状態・ご希望に基づいて行います。
記載内容は、日本口腔外科学会・日本歯科保存学会の臨床指針、ならびに国内外の歯科専門誌に報告された知見を参考にしています。研究データには個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるものではありません。
痛み・腫れなどの症状がある場合は、自己判断せず歯科医院をご受診ください。
CONTACT
「抜くべきか迷っている」「他院で抜歯と言われた」——セカンドオピニオンも承ります。レントゲン・CTで状態を確認したうえで、メリット・リスクをわかりやすくご説明します。